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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)53号 判決 1977年11月10日

東京都武蔵野市中町一丁目二一番八号

原告

山田勝久

東京都武蔵野市本町三丁目二一番一号

被告

武蔵野税務署長

右指定代理人

坂本由喜子

海老沢洋

清水定穂

和田清

軽部勝治

須貝秀敏

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(一)  原告

1  被告が原告の昭和四四年ないし同四六年分の所得税について昭和四八年三月一三日付でした各更正及び各過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

(二)  被告

主文と同旨の判決

第二、当事者の主張

(一)  請求原因

1  原告は、武蔵野市において青果小売商を営む者であるが、昭和四四年ないし同四六年分の所得税について別表一記載のとおり各確定申告をしたところ、被告は、それに対して同表記載のとおりそれぞれ更正(以下「本件各更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をした。

2  しかしながら、本件各更正は、原告の所得を過大に裁定したものであるから違法であり、これを前提としてされた本件各賦課決定も違法である。

よつて、原告は本件各更正及び各賦課決定の取消しを求める。

(二)  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は争う。

(三)  被告の主張

1  推計課税の必要性

被告は、原告の本件係争各年分の所得金額を推計により算出したが、これについては次のような事情があつた。

すなわち、

被告の所部係官は、昭和四七年一一月七日以降五回にわたり本件係争各年分の所得税調査のため原告方に臨店し、原告に対し確定申告に係る所得金額の計算内容の説明を求めると同時に、それらの内容を明らかにする帳簿書類の呈示を求めた。しかし、原告は、確定申告を正当とすることについて具体的な説明をせず、かつ、帳簿書類の呈示も一切しなかつた。

このため、被告は、原告の所得金額を実額によつて算出することが不可能であつたので、本件係争各年分の所得金額を推計により算出したものである。

2  昭和四四年分の所得金額

原告の昭和四四年分の所得金額及びその算出根拠は次のとおりである。

(一) 所得金額 二三五万三五八六円 (3)-((4)+(5)+(6))

(1) 売上金額 二三五七万四八一四円

(2) 売上原価 一八八六万二二〇九円

(3) 算出所得金額 三四七万四九二八円

(4) 雇人費 一〇八万〇〇〇〇円

(5) 建物減価償却費 三万一五八六円

(6) 地代 九七五六円

(二) 売上金額について

原告と同じく武蔵野市において青果小売業を営んでいる個人事業者のうち、所得税の申告につき青色申告書を提出したもので、かつ、売上原価からみて事業規模が原告と同程度と認められる者七名の昭和四四年における売上金額及び差益金額は別表二記載のとおりであり、その平均差益率は一九・九九パーセントである。

よつて、前記(一)の(2)の売上原価一八八六万二二〇九円に右平均差益率を適用して算出した売上金額は二三五七万四八一四円である。(売上原価÷(一-平均差益率)=売上金額)。

(三) 算出所得金額について

前記(二)の同業者七名の売上金額から売上原価及び一般経費を差し引いた所得金額は別表二記載のとおりであり、その平均所得率(売上金額から売上原価及び一般経費を差し引いた金額の売上金額に占める割合をいう、以下同じ。)は一四・七四パーセントである。

よつて、前記(一)の(1)の売上金額二三五七万四八一四円に右平均所得率を乗じた算出所得金額は三四七万四九二八円である。

(四) 雇人費について

原告の雇人は森島昭夫及び倉茂義雄の両名で、その給料である。

(五) 建物減価償却費について

原告は、自己所有の建物、総面積九九・一六平方メートルのうち、二七・二二平方メートルの部分を事業の用に供しているから、右建物に対する事業供用割合は、二七・四五パーセントであり、建物の取得価額は三〇四万四一〇〇円である。

よつて、建物減価償却費は、右建物の取得価額から残存価額である一〇パーセントを控除した金額に、耐用年数二四年の定額法による償却率〇・〇四二を乗じ、更に右二七・四五パーセントを乗じた三万一五八六円である。

(六) 地代について

原告は台恵雄から右(五)の建物の敷地を賃借し、その賃料は年額三万五五四一円であり、前記(五)と同じく、右敷地の事業供用割合は二七・四五パーセントである。

よつて、必要経費としての地代は右賃料額に右二七・四五パーセントを乗じた九七五六円である。

3  昭和四五年分の所得金額

原告の昭和四五年分の所得金額及びその算出根拠は次のとおりである。

(一) 所得金額 三〇二万〇一六五円 (3)-((4)+(5)+(6))

(1) 売上金額 二九五八万九〇八九円

(2) 売上原価 二三八九万三一八九円

(3) 算出所得金額 四二四万〇一一六円

(4) 雇人費 一一七万六〇〇〇円

(5) 建物減価償却費 三万一五八六円

(6) 地代 一万二三六五円

(二) 売上金額について

2の(二)と同様の基準で抽出した同業者一〇名の昭和四五年における売上金額及び差益金額は別表三記載のとおりであり、その平均差益率は一九・二五パーセントである。

よつて、前記(一)の(2)の売上原価二三八九万三一八九円に右平均差益率を適用して算出した売上金額は二九五八万九〇八九円である。

(三) 算出所得金額について

前記(二)の同業者一〇名の売上金額から売上原価及び一般経費を差し引いた所得金額は別表三記載のとおりであり、その平均所得率は一四・三三パーセントである。

よつて、前記(一)の(1)の売上金額二九五八万九〇八九円に右平均所得率を乗じた算出所得金額は四二四万〇一一六円である。

(四) 雇人費について

原告の雇人は森島昭夫及び倉茂義雄の両名で、その給料である。

(五) 建物減価償却費について

昭和四四年分と同じである。

(六) 地代について

昭和四四年分と同様の賃借で、その賃料は年額四万五〇四五円である。

よつて、右賃料に昭和四四年分と同じく事業供用割合の二七・四五パーセントを乗じた地代は一万二三六五円である。

4  昭和四六年分の所得金額

原告の昭和四六年分の所得金額及びその算出根拠は次のとおりである。

(一) 所得金額 三六〇万三九五二円 (3)-((4)+(5)+(6))

(1) 売上金額 三一九〇万三七四一円

(2) 売上原価 二五一八万四八一三円

(3) 算出所得金額 五一〇万七七八九円

(4) 雇人費 一四五万六〇〇〇円

(5) 建物減価償却費 三万一五八六円

(6) 地代 一万六二五一円

(二) 売上金額について

2の(二)と同様の基準で抽出した同業者一〇名の昭和四六年における売上金額及び差益金額は別表四記載のとおりであり、その平均差益率は二一・〇六パーセントである。

よつて、前記(一)の(2)の売上原価二五一八万四八一三円に右平均差益率を適用して算出した売上金額は三一九〇万三七四一円である。

(三) 算出所得金額について

前記(二)の同業者一〇名の売上金額から売上原価及び一般経費を差し引いた所得金額は別表四記載のとおりであり、その平均所得率は一六・〇一パーセントである。

よつて、前記(一)の(1)の売上金額三一九〇万三七四一円に右平均所得率を乗じた算出所得金額は五一〇万七、七八九円である。

(四) 雇人費について

原告の雇人は森島昭夫及び倉茂義雄の両名で、その給料である。

(五) 建物減価償却費について

昭和四四年分と同じである。

(六) 地代について

原告が昭和四四年分と同様の賃借で、その賃料は年額五万九二〇二円である。

よつて、右賃料に昭和四四年分と同じく事業供用割合の二七・四五パーセントを乗じた地代は一万六二五一円である。

5  以上のとおり昭和四四年ないし同四六年分の所得金額は、それぞれ前記算出所得金額から特別経費(雇人費・建物減価償却費及び地代)を控除した前記各所得金額で、本件各更正に係る所得金額を下回らないから本件各更正はいずれも適法であり、これを前提としてされた本件各賦課決定も適法である。

(四) 被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1のうち原告が確定申告を正当とする具体的な説明もしなかつたとの事実を除き、その余の事実は認める。帳簿書類は、右係官臨店当時原告方になかつたため呈示することができなかつたものである。しかし、原告は、右当時係官に対し仕入れ、売上げ及び経費等について記憶に基づいて説明したものである。

2  被告の主張2の(一)のうち、売上原価が被告主張の金額であることは認め、その余は争う。

2の(二)の事実は否認する。差益率は一九パーセントが相当であるから売上金額は二三二八万六六七七円と推計すべきである。

2の(三)の事実は否認する。所得率は一四パーセントが相当であるから、算出所得金額は三二六万〇一三五円と推計すべきものである。

2の(四)の事実のうち、原告の雇人である森島及び倉茂の両名の給料が被告主張の額であることは認める。

2の(五)の事実のうち、建物に対する事業の供用割合が二七・四五パーセントである事実は認め、その余は否認する。建物の取得価額は三一六万九一〇〇円であるから、建物減価償却費は三万二八八三円である。

2の(六)の事実のうち、原告が台恵雄から右建物の敷地を賃借し、賃料年額が三万五五四一円であつたことは認め、その余の事実は否認する。右敷地に対する事業供用割合は五〇パーセントであるから必要経費としての地代は一万七七七一円である。

3  被告の主張3の(一)のうち、売上原価が被告主張の金額であることは認め、その余は争う。

3の(二)の事実は否認する。差益率は野菜及び果物の売上げについては一八・一四パーセント、現金仕入れの物品の売上げについては二〇パーセントが相当である。売上原価は、野菜及び果物については二二二八万九九五六円、現金仕入れの物品については一六〇万三二三三円であり、また雑収入が二二万二九〇〇円であるから、結局売上金額は二九四五万八七四二円である。

3の(三)の事実は否認する。算出所得金額は四〇九万一八一九円とすべきである。

3の(四)の事実のうち、原告の雇人である森島及び倉茂の両名の給料が被告主張の額であることは認める。

3の(五)の事実については、前記2の(五)についてした認否と同じである。

3の(六)の事実のうち、原告が台恵雄から原告所有建物の敷地を賃借し賃料年額が四万五〇四五円であつたことは認め、その余の事実は否認する。右敷地に対する事業供用割何は五〇パーセントであるから必要経費としての地代は二万二五二三円である。

4  被告の主張4の(一)のうち、売上原価が被告主張の金額であることは認め、その余は争う。

4の(二)の事実は否認する。差益率は野菜の売上げについては一八パーセント、果物その他の売上げについては二〇パーセントが相当である。売上原価は野菜については一四〇九万六六八四円、果物その他については一一〇八万八一二九円であり、また雑収入が二三万四九四五円であるから、結局売上金額は三一二八万六一八四円である。

4の(三)の事実は否認する。所得率は一四・四五パーセントが相当であるから、算出所得金額は四五二万〇八五四円とすべきものである。

4の(四)の事実のうち、原告の雇人である森島及び倉茂の両名の給料が被告主張の額であることは認める。

4の(五)の事実については、前記2の(五)についてした認否と同じである。

4の(六)の事実のうち、原告が台恵雄から原告所有建物の敷地を賃借し、賃料年額が五万九二〇二円であつたことは認め、その余の事実は否認する。右敷地に対する事業供用割合は五〇パーセントであるから、必要経費としての地代は二万九六〇一円である。

(五) 原告の反対主張

1  被告主張の雇人費のほか、原告の雇人である次の者に対する給料も必要経費に算入されるべきである。

(一) 昭和四四年分

アルバイト学生木下たけ夫に三万二〇〇〇円

(二) 昭和四五年分

アルバイト学生に九万八〇〇〇円

(三) 昭和四六年分

アルバイト学生に九万一〇〇〇円

2  被告主張の減価償却費のほか、次のものについても、原告の昭和四四年ないし同四六年分の各所得金額の計算上必要経費に算入されるべきである。

(一) 冷蔵庫の減価償却費 六万円

原告は昭和三九年中事業用として冷蔵庫を六〇万円で購入した。これを九年で償却する。

(二) 自動車の減価償却費 九万三二四〇円

原告は昭和四二年中事業用として自動車を五一万八〇〇〇円で購入した。これを五年で償却する。

(三) 自動車車庫代 六万円

原告は右自動車の車庫を賃料月額五〇〇〇円で賃借した。

(四) シヤツターの減価償却費 (その一)

(1) 昭和四四年分 四五〇〇円

(2) 同 四五年分 四五〇〇円

(3) 同 四六年分 一万五七五〇円

原告は昭和三九年中事業用としてシヤツターを五万円で購入し、これを五年で償却すべきところ、同四六年一二月にこれを廃棄した。

(五) シヤツターの減価償却費(その二) 一一二五円

原告は昭和四六年一二月事業用としてシヤツターを一八万円で購入した。これを十年で償却する。

(六) 原告の反対主張に対する被告の認否

1  原告の反対主張1の(一)ないし(三)の事実は否認する。

2  同2の(三)の事実は否認する。2の(一)、(二)、(四)及び(五)の冷蔵庫、自動車及び建物付属設備であるシヤツターは、生鮮食料品を扱う青果業者の場合、いずれも通常必要とする什器、備品であるから、これらの減価償却費は一般経費として必要経費に算入しているものである。

第三、証拠

(一)  原告

1  証人一条治助、川瀬光雄の各証言及び原告本人尋問の結果を採用

2  乙第一ないし第三号証、第八ないし第一一号証の成立(第八、九号証、第一一号証は原本の存在及びその成立)は認める。その余の乙号各証の成立は不知。

(二)  被告

1  乙第一ないし第一一号証を提出(第八、九号証、第一一号証は写をもつて提出)

2  証人一条治助、川瀬光雄の各証言を援用

理由

一、請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、本件各更正が違法であるか否かについて判断する。

1  まず、被告の主張に係る原告の本件各係争年分の所得金額は、推計によつて算定したものであるから、右推計の必要性について検討する。

被告の主張1の事実は、原告が確定申告を正当とする具体的な説明をしなかつたとの事実を除き、当事者間に争いがなく、右争いのない事実と証人一条治助の証言及び原告本人尋問の結果によれば、被告の所部係官一条治助は、昭和四七年一一月七日以降五回にわたり原告の同四四年ないし同四六年分の所得税について調査のため原告方に臨店し、原告に対し帳簿書類の呈示を求め、また、収入金額や仕入先・金額等について説明を求めた。しかし、原告は、帳簿書類を呈示せず、また、同係官の質問に対しても大まかな応答をし、営業方針や営業の実態を知つてくれなどと申し述べるだけで、売上金額及び経費について具体的説明をしなかつた、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右によれば、本件処分当時原告は昭和四四年ないし同四六年分の帳簿書類を呈示せず、かつ、原告は被告の所部係官に対し十分な具体的説明をしなかつたのであるから、被告は右各年分の所得金額を実額により把握する由なく、これを推計により認定する必要性が存したことは明らかであり、また本訴においても所得金額を実額により算定するに足る資料の存在をうかがうべき証拠はないから、本訴においてもこれを推計によつて算定するほかはない。

2  次に、被告の主張に係る原告の本件各係争年分の売上金額及び算出所得金額(売上金額から売上原価及び後記にいう一般経費を控除した金額)は、被告主張の差益率及び所得率を適用して算出したものであるから、右各年分の差益率及び所得率について検討する。

証人川瀬光雄の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証ないし第七号証及び同証言によれば、東京国税局長は被告に対し、個人の青果小売業者で武蔵野市において事業を営んでおり、かつ売上原価が次に掲げる範囲内にある青色申告者、すなわち、

昭和四四年分 九四〇万円以上三七七〇万円以下

同 四五年分 一一九〇万円以上四七七〇万円以下

同 四六年分 一二五〇万円以上五〇三〇万円以下

ただし、次に該当するものは除外することとする。

<1>  果物を専業に販売していたもの

<2>  店舗を有せず引売りを行なつているもの

<3>  年の中途で事業を開廃したもの(法人成りを含む)

<4>  更正又は決定を行なつたものにあつては、不服申立期間又は出訴期間を経過していない

もの並びに当該処分に対して不服申立てがされて現在審理中のもの又は訴訟継続中のものの売上金額(雑収入を含む)、売上原価、差益金額、一般経費、差引所得金額、差益率及び所得率等について報告するように通達し、右一般経費については、青色申告決算書の「経費計<33>」欄から、経費各欄のうち建物減価償却費、給料賃金、利子割引料、地代家賃及び貸倒金の各金額を差し引いた後の金額を計上するものとしたこと、被告が右通達により調査した結果、右抽出基準に該当した同業者は別表二ないし四の記号A以下に掲げる七名ないし一〇名であり、その青色申告決算書記載の売上金額等により「青果小売業者の調査表」(乙第五ないし第七号証)を作成して報告したこと、右各調査表記載の売上金額等は右別表の該当欄記載のとおりであることが認められる。したがつて、その平均差益率及び平均所得率(以下これらを「平均差益率等」という。)は次のとおりとなることが計数上明らかである(単位はパーセント)

平均差益率 平均所得率

昭和四四年分 一九・九九 一四・七四

同 四五年分 一九・二五 一四・三三

同 四六年分 二一・〇六 一六・〇一

右認定の事実によると、右別表記載の各金額は同業者の各青色申告決算書の記載によつたものであり、右平均差益率等の算出の基礎となつた者は、原告と同じく武蔵野市内において店舗を有し、青果物小売業を営む個人事業者で、かつ、売上金額が原告のそれとほぼ類似するものであり、同業者の抽出基準に合理性があり、その抽出には被告の恣意の介在する余地がなく、その抽出数は同業者の個別性を平均化するに足るものといえ、また、同業者の差益率及び所得率も偏差が少なく、極端に低率または高率を示す同業者は選出されていないから、このようにして算出された前記平均差益率等は正確性及び一応の普遍性が担保されているということができる。

原告は、右平均差益率等よりも低い数値の差益率及び所得率をあげ、これを適用することが相当であると主張するが、右を基礎づける事実を認めるに足りる証拠は何もない。

したがつて、原告の売上金額及び算出所得金額の認定について、前記平均差益率等を用い、推計の方法によることは合理性があるものというべきである。

3  昭和四四年分の所得金額について

(一)  収入金額(売上金額)

売上原価が一八八六万二二〇九円であることは当事者間に争いがないから、売上金額は、右売上原価を「一-一九・九九パーセント(前記平均差益率)」で除した金額二三五七万四八一四円となることが計数上明らかである。

(二)  算出所得金額

算出所得金額は前記売上金額二三五七万四八一四円に前記平均所得率一四・七四パーセントを乗じた金額三四七万四九二八円となることが計数上明らかである。

(三)  所得金額の認定

被告は特別経費として計上されるべき雇人費、減価償却費及び地代は合計一一二万一三四二円であると主張するのに対し、原告は「被告の主張に対する原告の認否」2及び「原告の反対主張」のとおり本年分の特別経費として合計一三八万〇三九四円を主張する。しかしながら、仮に特別経費に計上されるべきものとして、原告主張の金額が認められたとしても、原告の所得金額は、前記算出所得金額三四七万四九二八円から右一三八万〇三九四円を控除した二〇九万四五三四円となり、昭和四四年分の所得税についての更正に係る所得金額一八七万二八二五円を上回ることになるから原告の右特別経費の主張について判断するまでもなく、右更正は適法である。

4  昭和四五年分の所得金額

(一)  収入金額(売上金額)

売上原価が二三八九万三一八九円であることは当事者間に争いがないから、売上金額は、右売上原価を「一-一九・二五パーセント(前記同業者の平均差益率)」で除した金額二九五八万九〇八九円となることが計数上明らかである。

(二)  算出所得金額

算出所得金額は、前記売上金額二九五八万九〇八九円に前記平均所得率一四・三三パーセントを乗じた金額四二四万〇一一六円となることが計数上明らかである。

(三)  特別経費

(1) 雇人費

原告の雇人である森島昭夫及び倉茂義雄に対する給料が一一七万六〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

原告は、右のほか、アルバイト学生を雇用し、これに対する給料が九万八〇〇〇円であつた旨主張するが、右主張に沿う原告本人尋問の結果はこれを裏付けるに足る資料が何ら存在しない以上、右尋問結果は必ずしも信用し難いし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。よつて雇人費は一一七万六〇〇〇円と認めるのが相当である。

(2) 減価償却費及び地代について

まず、特別経費に計上されるべきものとして、建物の減価償却費のうち三万一五八六円及び地代のうち一万二三六五円については、いずれも当事者間に争いがない。

次に、原告は、事業用に購入した冷蔵庫の減価償却費六万円及び同じく自動車の減価償却費九万三二四〇円を特別経費に計上すべきである旨主張する。

所得税法上、青果小売業者が事業用に購入した冷蔵庫及び自動車が減価償却資産に属し、その償却費が必要経費となることは明らかであるが、しかし、前記2の同業者の平均所得率は、青色申告決算書の「経費計<33>」欄から経費各欄のうち建物減価償却費、給料賃金、利子割引料、地代家賃及び貸倒金の各金額を差し引いた後の金額を一般経費として計上し、これにより算出したものであることは既に述べたとおりである。そうして、原告主張の右冷蔵庫及び自動車は、原告と同じような規模の青果小売業者の場合、通常購入して事業の用に供している備品であることは明らかであるから、これらの減価償却費は前記平均所得率の算出にあたつては、一般経費に計上され、必要経費に算入されているものであり、これをさらに特別経費に計上すべきものでないというべきである。

したがつて、原告主張の冷蔵庫及び自動車の減価償却費は、前記算出所得金額より控除すべき特別経費にはあたらない。

(四)  所得金額の認定

原告は、右(三)において判断したもののほか、建物減価償却費一二九七円(被告主張の三万一五八六円と原告主張の三万二八八三円の差額)、地代一万〇一五八円(被告主張の一万二三六五円と原告主張の二万二五二三円の差額)、車庫代六万円及びシヤツター減価償却費四五〇〇円(合計七万五九五五円)は特別経費として計上されるべきである旨主張する。しかしながら、仮に、特別経費として原告主張の右金額が認められたとしても、原告の所得金額は、前記算出所得金額四二四万〇一一六円から前記(三)の雇人費一一七万六〇〇〇円、建物減価償却費三万一五八六円及び地代一万二三六五円と右七万五九五五円(合計一二九万五九〇六円)を控除した二九四万四二一〇円となり、昭和四五年分の所得税についての更正に係る所得金額二九三万九四〇四円を上回ることになるから、原告の右特別経費の主張について判断するまでもなく、右更正は適法である。

5  昭和四六年分の所得金額

(一)  収入金額(売上金額)

売上原価が二五一八万四八一三円であることは当事者間に争いがないから、売上金額は、右売上原価を「一-二一・〇六パーセント(前記同業者の平均差益率)」で除した金額三一九〇万三七四一円となることが計数上明らかである。

(二)  算出所得金額

算出所得金額は、前記売上金額三一九〇万三七四一円に前記平均所得率一六・〇一パーセントを乗じた金額五一〇万七七八九円となることが計数上明らかである。

(三)  特別経費

(1) 雇人費

原告の雇人である森島昭夫及び倉茂義雄に対する給料が一四五万六〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

原告は、右のほか、アルバイト学生を雇用し、これに対する給料が九万一〇〇〇円であつた旨主張するが、右主張に沿う原告本人尋問の結果は必ずしも信用し難いこと昭和四五年分の雇人費について述べたと同様であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

よつて、雇人費は一四五万六〇〇〇円と認めるのが相当である。

(2) 減価償却費及び地代について

まず、特別経費に計上されるべきものとして、建物の減価償却費のうち三万一五八六円及び地代のうち一万六二五一円については、当事者間に争いがない。

次に、原告は、事業用に購入した冷蔵庫の減価償却費六万円及び同じく自動車の減価償却費九万三二四〇円を特別経費に計上すべきである旨主張する。

しかしながら、右冷蔵庫及び自動車の減価償却費が前記算出所得金額より控除すべき特別経費にあたらないことは、前記4の(三)(2)で判断したとおりである。

(四)  所得金額の認定

原告は右(三)において判断したもののほか、建物減価償却費一二九七円(被告主張の三万一五八六円と原告主張の三万二八八三円の差額)、地代一万三三五〇円(被告主張の一万六二五一円と原告主張の二万九六〇一円の差額)、車庫代六万円並びにシヤツター減価償却費(その一)一万五七五〇円及び同(その二)一一二五円(合計九万一五二二円)は特別経費として計上されるべきである旨主張する。しかしながら、仮に、特別経費として原告主張の右金額が認められたとしても、原告の所得金額は、前記算出所得金額五一〇万七七八九円から前記(三)の雇用費一四五万六〇〇〇円、建物減価償却費三万一五八六円及び地代一万六二五一円と右九万一五二二円(合計一五九万五三五九円)を控除した三五一万二四三〇円となり、昭和四六年分の所得税についての更正に係る所得金額三四二万三八〇〇円を上回ることになるから、原告の右特別経費の主張について判断するまでもなく、右更正は適法である。

三、以上のとおり、本件各更正は、いずれも適法であるから、本件各賦課決定にも右違法を前提とする違法はないというべきである。

四、よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 菅原晴郎 裁判官 成瀬正已)

別表一

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別表二 (昭和四四年分)

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別表三 (昭和四五年分)

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別表四 (昭和四六年分)

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